最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
臓器農場 | 新潮文庫 |
著者 | 出版年 |
帚木蓬生 | 1996 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
カバーの説明が的確な内容だと思うので転記する。
新任看護婦の規子が偶然,耳にした言葉は「無脳症児」──。病院の「特別病棟」で密かに進行していた,恐るべき計画とは何か? 真相を追う規子の周囲に,忍び寄る魔の手……。
医療技術の最先端「臓器移植」をテーマに,医学の狂気と人間の心に潜む〝闇〟を描いた,サスペンス長編。現役医師としてのヒューマンな視線,山本周五郎賞作家の脂の乗り切った筆致が冴える,感動の名作。ということである。臓器移植というテーマを通して作者が言いたかったことは,生命とは何か,死とは何か,そして,ヒトが自らの生を支配することはできるのか,できたとしてそれは是か非かということだと思う。作者が医師であるが故に,それは他人事ではなく,つねに念頭にあって考えている問題なのだろう。昨今論議されているクローン,脳死,臓器移植といった問題についての考えを深める材料として大いに役に立つ。研究の倫理という点から考えると,ぼくにとっても決して他人事ではない(念のため書いておくと,ぼくは臓器移植とは全然関係していないけれど)。
探偵役の天岸規子看護婦とケーブルカーの藤野茂車掌の描写には人間的魅力が溢れており,彼らが味わうサスペンスの盛り上げ方も絶妙である。たんにエンタテインメントとして考えてもよくできていると思う。