最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
老化と遺伝子 | 東京化学同人 |
著者 | 出版年 |
杉本正信・古市泰宏 | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
老化とは何か,その原因は? という点から説き起こされ,プログラム説,エラー蓄積説,体細胞廃棄説,架橋結合説,ホメオスタシス説,と代表的な仮説を紹介した後で,老化によって何が変わるのかを器官レベル,組織レベル,細胞レベル,分子レベルと順序よく説明し,遺伝子レベルでの説明を加え,最後に老化防止(8章),高齢社会(9章)と題して最近のトピックが要領よくまとまっている。7章は必要かどうか判断に迷うところだが,一般読者にはまとめの意味で役に立つ章かもしれない。テロメアーゼの説明も必要十分と思うし,ウェルナー症の説明は専門だけあって興味深かった。
個人的に面白かったのは,個々の記載は詳しくないが,Hawkesの「おばあちゃんの育児支援による閉経後の寿命延長説」,食事制限による寿命延長,エストロゲンの老化防止作用,といったトピックである。代表的な研究者の名前がわかるので,それをもとにPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/)で検索すれば書誌情報に辿り着くことは不可能ではないが,引用論文リストをきちんとつけて欲しいところである。なお,Hawkesの論文はProNASのAnthropologyセクションに載ったものなので,本書での引用の仕方は誤りである。
レプチンとかNPYとかCRHとか視床下部-下垂体-性腺系におけるエストロゲンの役割とか併せて考えれば,食事制限とエストロゲンは関連づけて論じることが可能な筈だが,していないのが惜しい。
なお,エピローグにおける延命医療批判には同感するが,若返りの薬を支持する立場はやはり薬学の人だなあという印象を受けた(2号くらい前の学士会会報に出ていた,脂質の過酸化が老化という「病気」の原因だからそれを防げば飛躍的に寿命は延長するはずとかいう誰かの主張ほど極端ではないにしても)。200歳とか300歳とかまで生きるようにして何の意味がある? とぼくなどは思うのだが。