最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
女の脳・男の脳 | NHKブックス |
著者 | 出版年 |
田中冨久子 | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
さほど期待せずに買ったのだが,これは収穫であった。視床下部-下垂体-性腺(卵巣)系におけるオピオイドニューロンの関与の話などは「脳と生殖」よりも詳しいし,著者自身がGnRHサージジェネレータを研究していることからくる記載の厚み,巻末のきちんとした引用文献リストなどと相俟って,良書といえる。もちろんかなり最近の論文までおさえてあり,人口大事典の原稿を書くのに大いに参考になった。
タイトルから想像される通り二元論的であり,分布があることよりもその二峰性を強調する分析枠組みであるが(言い換えれば典型についての話であるが),そのことさえ注意して読めば,記載方法が基本的にデータと論理によっているので理解しやすく(読者の目を引くためか,ところどころ逸脱していないとはいわないが),このテーマについて日本語で書かれた本の中では卓越しているといってよい。参考のために目次を転記しておく。
まえがき
第1章 かたちがちがう女の脳と男の脳
脳のかたち/新しい脳と古い脳/脳のかたちの性差
第2章 本能と情動の脳の性差
ケーキが好きな女の脳/小食の女の脳と大食漢の男の脳/遊びけんかが好きな男の子の脳/おとなの男の脳は女の脳よりも攻撃的/異性になりたい脳と同性に惹かれる脳/性周期をつくりだす女の脳
第3章 知性の脳に性差はあるか
アメリカにおける33年間の統計/女がおしゃべりというのは本当か/空間能力に優れるといわれる男の脳/数学的能力に性差があるか/男と女でちがうラテラリティ/女の知性が子に伝わる
第4章 こころの病気のかかり易さの性差
第5章 脳をつくるもの
からだも基本は女のかたち/精巣のホルモンによって男の脳になる/環境も脳をつくる
第6章 若さがちがう女の脳と男の脳
ヒトの脳は大きくなった/なぜヒトの脳は大きくなったのか/もう一つの進化要因,ネオテニー(若さを保持する)/脳の巨大化を助けたネオテニー/女と男,どちらがよりネオテニーか
参考文献
あとがきあとがきにある,女と男の生物学的違いを認めた上での協調,というのはある意味で当然と思うが,性的二型ではなくて分布としての個人差を認めた上での協調とした方がより理にかなっているのではなかろうか。もっとも,機能まで含めて個人差をいちいちきちんと調べるわけにはいかないだろうから難しいのだが。