最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
李歐 りおう | 講談社文庫 |
著者 | 出版年 |
高村薫 | 1999(1992年刊『わが手に拳銃を』を下敷きに改稿) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
まぎれもない傑作である。
14歳の時に読んだ新潮文庫の「デイヴィッド・コパフィールド」や,20歳の時に読んだ「ガープの世界」を思い出した。恥ずかしげもなく書いてしまうと,感動したのである。才能ある一人の男が生まれ,流れ,恋をして,悪事に手を染めながら,大人になってゆく話,と筋を書いてしまうと,この物語の本質が字と字の間から抜け落ちてしまうような気がする。大小取り混ぜさまざまな悪党が出てくるのだが,皆人間として魅力的に書かれている。何でこんな危険な人生を選択してしまう主人公に感情移入できるのか不思議だが,後半は主人公になりきって読んでしまった。作者の筆力のなせる業であろうか。
この物語の第2の魅力は戦後からバブルへと激変するアジア情勢を背景として描ききっていて,興奮する。時代の空気を感じ取らずにはいられない。この点については,おそらく綿密な取材をしたのであろう。
漢詩のリズムの美しさも,この物語の情緒に幅を与えている。満開の桜の下で,酒でも飲みながら読むと良い。時の経つのを忘れてしまうだろう。文句なしにお薦めする。