最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
アキハバラ | 中央公論新社 |
著者 | 出版年 |
今野敏 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
基本的に小説はハードカバーでは買わないことにしているのだが,この本は,秋葉原を舞台としているためについつい買ってしまった。
唯一の欠点を除いては,まあよくできた冒険小説というか,チャンバラ映画のような作品と思う。あっという間に読めてしまった。田舎から上京したばかりの大学生が,憧れの秋葉原で,緊張しすぎたせいで万引き犯と間違えられたことを発端に,たまたま彼の行く先々に居合わせた人々があまりに特殊だったせいで,マフィアの絡んだ銃撃戦に巻き込まれる,というのが物語の筋である。ちょっと考えるとご都合主義の塊なのだが,実は,それこそが今野敏氏が本書に込めたメッセージなのに違いない。つまり,秋葉原にはいろいろな人が集まっており,何が起きても不思議はない,それくらい秋葉原は無国籍的な,複雑な空間になっているということだ。今野氏の作品の美点だと思うのだが,その妙な人たちに向ける視線があたたかい(愛がある)ので,読後感が非常によい。単純に言ってしまうと,これはオタク&マニア賛歌なのである。
銃撃戦が起こった後,それにアウトロー警察官の碓氷がどうやって立ち向かうか,が本書後半の読みどころである。ここで活躍するゲンさんの描写がよい。たしかにラジオストアやラジオ会館の奥にはそういう人がいそうである。安積警部補シリーズで描かれる警察機構への苛立ちのようなものも描写の端々に出てくるし,安全を過信している日本人批判というのもお約束のように出てくるが,本書ではどちらかというとそれらはさりげなく触れられるにとどまっている。あくまで,碓氷かっこいー,ゲンさんかっこいー,とミーハー的に読むのが筋であろう。
…と考えると,210ページの描写だけはどうしてもいただけない。ネットワークとコンピュータについての言及が甘すぎる。今時,どこの世界に「C言語使い」だなんて自慢する凄腕ハッカーがいるというのだ。恥ずかしい。もしギャグのつもりでないのなら(ギャグだとしても寒くて笑えないが),再版の際には,是非書き直していただきたいものである。
さらにいうなら,LAOXはIPを4×254アドレスもっているので,ザコン館の店頭のC1が直接外から見えたって悪くはないのだけれど(まあ,たぶんゲートウェイがあって内部はローカルIPだと思うのでゲートウェイに侵入してローカルは別にsniffするとかの方が現実的だけれど),Windows98をリモートで動かすなんて,あんな不安定なOSにそんなことしてハングしたらどうしようもなくなることは火を見るより明らかなので,ハッカーの行為としてはリアリティがなさすぎである。せめてたまたまLinuxかなんかがセットアップされていたという設定にして,実はMotion Eye用のドライバをその人がバイトの下請けで書いていたということにしてくれたら納得するのだけれどなあ。その辺をうまく消化して物語に組み込んでくれると,「アキハバラ」らしさが10倍くらい増すと思うので,惜しいところなのである。
はぎはら <central.med.teikyo-u.ac.jp> website
普段この手の本はほとんど読まないのだが、この本を読んで少し考えが改まった。確かにあっという間に読んでしまった。ぼくは実際に秋葉原に何度も行ったことがあるので、読んでいると秋葉原の景色が浮かんでくるようである。確かに舞台となったLAOXザコン館(だと思う)のトイレは入り組んだところにあるし、売場からは死角になっている。この手の予備知識がある人にはオススメの一冊である。
ただちょっとドタバタした感があるのは否めない。それに「凄腕ハッカー」がどのような方法でザコン館に侵入したのかもうちょっと詳しく書いて欲しいと思った。