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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『シャーロックホームズの愛弟子 女たちの闇』

書名出版社
シャーロックホームズの愛弟子 女たちの闇集英社文庫
著者出版年
ローリー・キング(山田久美子 訳)1999



May 28 (fri), 1999, 19:38

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

シャーロック・ホームズの愛弟子メアリ・ラッセルを主人公とするシリーズ物の第2作,A Monstrous Regiment of Womenの邦訳が出たので読んでみた。

「女たちの闇」という訳はなかなかうまいと思う。直訳「バケモノじみた女たちの軍隊」ではひどすぎるし,「女は魔物」じゃあ意訳のしすぎだし,どうするのだろうと思っていたが,「闇」とは含蓄が深い。

もちろん「ホームズの愛弟子女子大生ラッセル」というのはキングが勝手に考えた設定だから,いわゆるホームズ・パロディものである。

実は原作を1997年にペンシルヴェニア留学中に買って読んだのだが,古い英国風の言い回しが多く,読むのに難儀した記憶がある。あの文章をよくここまで訳したものだと感心した。たしかにホームズに老いたる英国紳士という雰囲気は良く出ているのだが,茶目っ気がちょっと足りないような気はする。

ラッセルの親友がかかわっている新興宗教とそのカリスマ的な女性教主を巡る陰謀,ラッセルはその親友を救うことができるか? というのが全体の筋立てである。

物語は論理性よりもサスペンス優位であるが,サスペンスに重要なスピード感にやや欠ける。構成はしっかりしているのに何故読みにくいのか,というと,ラッセルとホームズの恋愛感情やラッセルの価値観(フェミニズムとか)が物語に織り込まれているのが原因だと思う。ラッセルというのは,まるで森博嗣の犀川助教授シリーズに出てくる西園寺萌絵のようなキャラクタなので,そのラッセルに価値観を語らせるという試みは難しすぎると思うわけだ。むしろそういうものを排除したところにホームズ物のエッセンスがあると思うのだが。

なお,前作Beekeeper's Apprentice(直訳すると「養蜂家見習い」なのだが,邦題は「シャーロックホームズの愛弟子」)をかなり引きずっている物語なので,前作から先に読むことをお薦めする。


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