最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
蚊學の書 | 集英社文庫 |
著者 | 出版年 |
椎名 誠(編著) | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
1994年に出た本が文庫落ちしたので買って読んでみた。蚊を巡るエッセイ集である。最後のエッセイがいい味を出していて,好きだなぁ。
シベリア,北極,アマゾンの蚊の「ものすごさ」の描写は凄いが,それにもまして凄いのは,現実か空想かしらないが,椎名誠自身の書いた「蚊」である。これは面白い,というか,背筋が寒くなる。一読をお薦めする。また,大笑いしてしまったのは,蚊談会(蚊の川柳・鑑賞と新釈)である。
資料的価値としては後半の蚊を巡る言説についての総覧は優れている。これほどのは他にない。巻頭と半ばの生物学的資料は,誤解が散見されるので今ひとつ。池庄司敏明さんの「蚊」を引用しているのに,27ページ下欄の「蚊は炭酸ガス(二酸化炭素)や体温を察知して近付いてくる。血液型にはあまり関係ない。」というのは妙である。ただしくは,蚊の種類によって好む血液型は違う,ということである。Woodの空恐ろしい実験(下記URL参照)を引用しないなんて,この本にしてはもったいないと思う。あと,マラリアに関しても誤解を含んだ記述が散見される。これは,専門の学者が書いた研究書ではないのだから,仕方がないことかもしれない。マラリアを媒介するハマダラカは,小さいものが多くて,あまり激しく一直線には襲ってこない。ソロモン諸島の主要媒介蚊,An. farautiなんかは,脚と足しかささないから,裸足でボーとしていると気づかないうちに足がぼこぼこになっていたりするのであって,ウワーンと音を立てて攻めてきたりするやつはそんなに怖くないのだ。
ファンシダールの副作用で失明された武岡さんの話は恐ろしい。あれは確かに薬害である。1989年に調査にいったとき,ぼくもマラリア予防薬として飲んでいたのだのだよなぁ。副作用が出なくてよかったなぁ。
しかし,調査なんかしていると,誰にでもきっと「あそこの蚊は酷かった」という体験があると思う。ぼくにもあって,パプアニューギニアのギデラ族を調査していて,乾季の初めにドロゴリ村で,夜間にシノニオ(鴨)を叩きに行ったときの蚊は酷かった。完全武装していったのに,ジーンズが水に濡れて足に張り付いた部分がボコボコに腫れあがっていたなぁ。あ,この話はそのうちどっかで書こう。