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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『おいしい水の探求』

書名出版社
おいしい水の探求NHKブックス
著者出版年
小島貞男1985



Sep 03 (thu), 1998, 14:50

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

手元にあるのは1996年刊で第20刷となっている。「水道生活40年」の著者が,いかにおいしく安全な水道水を供給するかということに心をくだいてきた体験談である。興味深いエピソードに溢れている。史上最強のハナリストMさんが凄い。それも,味覚でなくて臭いでわかるというところが面白い。

日本のみならず各国の水道事業を実際に見てきた人の言葉なので,実感がこもっている。とくに,戦後汚れゆく多摩川の水を原水として玉川浄水場の場長をつとめながら,飲める水道水の確保のために試行錯誤してきた経験談は,急速濾過への転換に対する反省点も含め,読み応えがあった。

水利権の問題も含め,なぜ現代の日本でおいしい水が飲めないかという問題には,さまざまな原因がある。中でも,水源汚濁も含め,利益(経済成長)至上主義と大量消費の是認の影響は大きいのだが,鉄バクテリアやマンガンバクテリアを利用した浄化法がすばらしいのに実用されない原因として著者が述べている,「この方法は簡単すぎて安上がりでだれも儲からないから」には目からウロコが落ちた。著者の主張を認めるならば,たとえ水源が汚れていても(もちろん汚さないのが第一であるが),生物酸化法,凝集沈殿,長毛濾過の順で処理した後で緩速濾過をかければ(またはオゾン処理と粒状活性炭濾過層の組み合わせ処理をすれば),安価に済んで,しかもおいしい水を得ることは可能らしい。しかしそれでは薬品が売れなくなるので広まらないということなのだろう。宇井さんも書いていたが,やはり経済成長に至上の価値を置くのが諸悪の根元ではなかろうか。

最後の2ページ,高価なパック詰めミネラルウォーターを買う人がいるのは理解できないという主張は理解するが,それなら水道水として「おいしい水」を供給して欲しいよなぁ(ちなみに,現在の東京の水道水は陰イオン界面活性剤濃度はかなり基準値に近く,結合残留塩素レベルも高く,とても安全でもなければおいしくもないのは周知の事実である)。


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