最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
縄文探検:民族考古学の試み | 中公文庫 |
著者 | 出版年 |
小山修三 | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
縄文考古学の権威,小山修三さんによる,縄文時代の人を巡るエッセイ集。最後の「これから,考古学にかかわる人たちが,縄文遺跡を歴史ではなく個々の社会のエスノグラフィーとして記述する姿勢をつよめるならば,より豊かな領域が開けてくるのではないかと思う。」という一文が示す通り,小山さんのアプローチは一貫してエスノグラフィーであり,それゆえ生き生きとしていて面白い。
いままで小山さんってアボリジニと縄文の人だと思っていたけれど,カリフォルニアインディアンから研究を始めたことを初めて知った。なるほど,カリフォルニアインディアンも縄文的であるという主張にはいちいち納得してしまう。本書はエッセイ集なので,中公新書の「縄文時代」と違って,かなり生々しい(ある意味ではくだけた)話が多く,素人でも楽しめると思う。美へのこだわりの推論などは,実に大胆である。
文庫化されるときに三内丸山遺跡の検証が加筆されており,学問としても重要な知見を含んでいる(もっとも,小山さん自身の見解というよりは,梅棹忠夫さんの仮説の紹介だが)。また,アメリカのサマースクールのように発掘ボランティアにきちんとやってもらって代わりに単位を与えるという,「学術観光」の考え方には賛成である。生涯教育というのは,そういうインフラを経て実現されるものだと思う。
ただ,シミュレーションについては疑問がある。256ページに書かれているが,「300人程度の人口規模で平均寿命が31歳程度でシミュレーションをすると何度やっても絶滅」したそうである。それで小山さんは,「観察や理論をはねとばすような多産なイブのおかげで」絶滅しなかったのだろう,というロマンティックな結論に逃げているが,果たして本当だろうか,と疑問をもったわけである。そこで,自分のプログラムでマイクロシミュレーションをしてみた。すると,初期人口300人で平均寿命31.5歳でも,平均初婚年齢13歳にすれば合計出生率の理論値5.4程度で,ちゃんと集団は存続した(もっとも,適当な相手がいなくて結婚できないという場合が10%程度起こるのだが,それでも存続するのだ)。ぼくのこの実験結果から考えると,何世代かで絶滅してしまうのは,たんにプログラムのミスだったのではないかという疑いを禁じ得ないのだが,どうですか?