最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
街を泳ぐ、海を歩く カルカッタ・沖縄・イスタンブール | 講談社文庫 |
著者 | 出版年 |
与那原恵 (Yonahara Kei) | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
こういう作品を書き下ろしで出してくるから講談社文庫は侮れない。旅をして考えたことを書いているという意味では旅行記なのだが,そのスタンスは,ありがちな観光ガイドでもなければ冒険譚でもなく,敢えて言うなら私小説である。しかも,「私」の物語を通して彼女が通った世界の背景が見えてくるという,優れた私小説である。巻末の川本三郎さんの解説はよく本質をついていると思う。
出てくる場所は,表題のカルカッタ・沖縄・イスタンブールの他に,オキナワ村(ボリビア),バリ島,黒龍江省,ロスアンゼルス,パリ,ホア・ヒン(タイ)である。オキナワ村と黒龍江省の話が白眉と思う。安直な類型化を避け,自分を意識した記述に努めている態度に好感をもった。
徒然三十郎 <tkyo3300.ppp.infoweb.ne.jp>
「私がよく言ったことは、人間の不幸というものは、みなただ一つのこと、すなわち、部屋の中に静かに休んでいられないことから起こるのだということである」
(パスカル(前田陽一・由木康[訳])『パンセ』より)僕には旅行好きイコール落ちつきのない人というイメージがあるのですが、著者の与那原氏は落ちついてものを考えられる立派な人です。著者のご両親は沖縄生まれであり、本書には沖縄の話題がしばしば登場しますが、著者はヤマトンチュー糾弾に執着することなく、さりげなくこんなことまで書いているのです。
「復帰運動は日の丸とともにあり」10ある章のなかで僕が最も気にいったのは、人間はひとくきの葦にすぎないことを感じさせる「第3章 デンパサール・ムーン(インドネシア・バリ島)」です。