最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
凍(いてづき)月 (HEADS) | ハヤカワ文庫 |
著者 | 出版年 |
グレッグ・ベア(小野田和子訳) | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
紹介しようと思って背表紙を見たら,このタイトル欄のようになっているのに気づいた。ちょっと変かも?
グレッグ・ベアの「火星転移」「女王天使」と同じ世界(ただし時点は異なる)の話で,舞台は表題通り月である。同じ世界を描いた話としてはもう一作,Slantというのでシリーズが完結するが,それは未訳である。「火星転移」も「女王天使」も長いが,本作は本編230ページのコンパクトな作品である。結構場面が変わるので,氷穴の緊張感を維持するためには一気読みした方がいいと思う(ぼくは一日30分くらいずつたらたら読んでいたので失敗した)。
テーマは,信仰だと思う。冷凍保存してあった人間の頭部410個を,絶対零度達成実験が行われている月の「氷穴」に持ち込んだら何が起こったのか? 絶対零度は達成されたのか? その頭部の中に3つあった身元不明のものは,誰のものだったのか? という謎解き的な期待(すべて過去形なのは,文頭から語り手ミッコの回想として語られるため)もある程度満たされるが,それ以上に,状況状況に対する登場人物の各々の信念に基づく言動がストーリーの焦点である。物理のわかる読者なら別の読み方もできるかもしれないが,絶対零度達成実験の説明が素人にはやや物足りない。もう少し書き込んでくれないとイメージがわかない(とくにブツ切れで読むと駄目…これはぼくが悪いのだが)。スキャニングももっと説明が欲しい。それでもクライマックスの描写の美しさ,儚さはすばらしいので,損をした気はしないけど。