最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
夜来たる(長編版) | 創元SF文庫 |
著者 | 出版年 |
アシモフ&シルヴァーバーグ(小野田和子訳) | 1998 |
E. Shioda <ppp910.st.rim.or.jp> website
暗闇を知らない世界。人々が暗闇を想像することすら拒否する、六つの太陽が
照らす世界。だが彼らが知らなかったのは、約二千年に一度、そこには暗闇が
訪れ、人は狂気にとらわれて文明を破壊していたこと。アシモフ&シルヴァーバーグによる本書「夜来たる(長編版)」は、第一部の
夜が来て人々が発狂するところまでの部分を描いた従来の作品に、二部、三部
を加え、夜明けの様子と世界の再生への一歩までを描いた作品だが、初めての
人間でも充分に楽しめる。とにかく読ませる作品だ。ただ、地球のように太陽がひとつで、暗闇がどういうもので、空には星があっ
ても落ちてくるものではないしその理由も知っている世界に住む読者として、
聡明であるはずの登場人物(科学者一同)が星とは何かと悩む姿がじれったく
思え、ともすれば白けてしまいそうになる。また、人々のほとんどが死に絶えて、文明をほとんど一から再構築してきたと
いう設定なのだが、それには二千年はあまりにも短いのではないかと考える。
世界が無秩序になっても、人は生き残っているのだ。実際のところ、話の主軸に最初から絡む「炎の使徒」という宗教団体は、一定
の周期で暗闇が訪れる事実を知っていた。生き残る人々のために訪れつつある
暗闇の記録を残さんとする科学者らと対立し、秘密を自分たちの組織の内部に
神聖な教えとしてとどめおくため、あるときは取引し、襲撃もした。ある意味
ではこの集団こそが主役と言える。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
ご紹介ありがとうございます。設定が面白そうなので読んでみたいと思います。
カルト宗教団体が絡んでくる話って多いですね。「凍(いてづき)月」もそうでしたし。狂気は小説の永遠のモチーフなのでしょう。
では,読了したらまた書きます。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
やっと読了したが,期待に違わぬ面白さであった。とくに,シルバーヴァーグの加筆になる第3部の夜が明けてからの話が,物語に奥行きを与えている。アシモフの想定とは違っているかもしれないが,ぼくはこういう展開の方が好きだ。
ただ,疑問がいくつかないことはない。第一に,いくらオカルトの予言と一致したからといって,科学者が言ったことを検討すらできないほど一般市民が想像力に乏しいというのは共感できない。もちろん相手はヒトではないので共感できなくてもあたりまえだが,性的二型があることや喜怒哀楽のパタンなどはヒトに近いので,つい錯覚してしまって違和感を感じるのだ。この星のサロ・シティのあたりには,どうやら新聞は一紙しかないようだが,その新聞記者の書くことに皆が乗せられてしまったとすると,よほど全体主義的傾向が強いらしい。社会人たるもの,普通の判断力をもっていれば,半信半疑だとしても何らかの準備をしておくんではなかろうか。
第二に,ビーネイが「日蝕」と初めて口にする場面が不自然である。その一言がなければ科学者集団も夜が来るのを予測できなかった筈だが,星を想像できないのに日蝕を想像できるというのが腑に落ちない。ともあれ,かなりよくできたSFであることには間違いないと思う。カルト集団の教義と同じ結論に到達してしまったときの科学者の困惑など,もう少し掘り下げることも可能だったかもしれないが,科学の社会に対する責任を浮き彫りにすることには成功している。