最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
東京湾三番瀬:海を歩く | 三一書房 |
著者 | 出版年 |
小埜尾精一+三番瀬フォーラム(編著) | 1995 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
下記URLの「価値観のゆらぎ」と題する文でレポートした講演会で買ってきたわけだが,漸く読み了えた。東京湾と自然に関心のある人,自然保護に関心のある人にはお薦めできるし,少なくとも前半は一般読者にも楽しめるように書かれている。
プロローグ「海を歩く」,第1章「東京湾は生きていた!」,第2章「貝の噴水,イワシの遊戯,コアジサシの唄───豊穣の海・東京湾」までは,如何に三番瀬が豊富な生物相をもつ場所であるかということが具体的に描写されている。海の生物が好きな人なら誰でも行ってみたくなるような記述である。
第3章「江戸前漁業」は,データとして重要である。ここまで詳細に数字を出してくれると,江戸前漁業の現状がよくわかる。水揚げされた魚介類の多くは築地などへ直行し,地元民の口に入る機会がないので,時々は浜値での朝市くらいやって欲しいという主張には賛成するが,「この漁師なら海を任せてもよいな」ということを決める審議機関を設置し,漁師に漁業権を発行するというのは極論と思う。実際に出漁していなければ漁師と認めないというのは当然なのだが。
第4章「砂の記憶,潮の記録───埋立問題」と第5章「海の声を聴け」,及びエピローグは埋立問題の経緯とその中で三番瀬フォーラムを含む市民運動が果たしてきた役割,これからミティゲーションの思想を踏まえて市川側にも湿地を復元する工事をすべきであるという三番瀬フォーラムの主張がはっきりと,わかりやすくかかれている。自然保護の市民運動の記録・広報として,他に類を見ない詳細さである。千葉県に情報開示を求めている以上,自分たちの集めた情報を公にするのは当然かもしれないけれど。
主張にはかなり肯けるのだが,保護運動でも自然を生かした街作り運動でも,ぼくが「価値観のゆらぎ」で書いたような視点がないのが弱点と思う。