最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
歯医者に虫歯は治せるか | 東京創元社(創元ライブラリ) |
著者 | 出版年 |
志村則夫 | 1997 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
著者は,東京医科歯科大学の予防歯科学の助教授である。著者の立場からすると,この本に書かれていることは,きわめて大胆である。
つまりこの本は,手を変え品を変え,「病気とは,虫歯や歯周病も含めて,すべて適応の破綻である」という一つの主張をしているものである。主張自体には賛成したいが,他の歯科医からは嫌われているだろうと思う。内容はタイトルやカバーほど挑戦的でなく,データも出しているし,普通の西洋医学的治療や予防の効果もちゃんと認めているのだが(著者が臨床としてやっている治療自体は,現象的には普通の西洋医学的な治療とあまり変わらないようだ),ところどころ逸脱している。
末期の肝臓癌患者が「先生のご著書の通り,毎日を感謝の気持ちで生きていたら,癌が消えてしまいました」と報告したとか,徹底した学校歯科保健をしているときは「チクリ」や「シカト」が多くて子どもたちの友人関係がうまくいかなかったのが,学内の人間関係を重視した学校歯科保健を展開したら「チクリ」もなくなりお互いにあいさつをかわす明るい小学生になった,とか,まるでラピスラズリの通販広告に出てくる体験談のようだ。こうした逸脱エピソードはそれなりに面白いが,量的なデータは一切無いし,どこまで信用して良いのか判断できない。また,用語の使い方が一般的でないところがいくつか見受けられる(「疾病」と「病気」のこういう使い分けは初めて見た)。
甘いものを食べた後すぐに歯を磨くことは,歯垢除去には有効で,ストレプトコッカス・ミュータンス(いわゆる虫歯菌)の生育は防ぐけれども,同時に口の中の酸化的状態がすぐになくなるために,口腔内への空中の雑菌の侵入は起こりやすくなるから,一概にすぐ歯を磨けという指導がいいとはいえない,という説明は論理的で納得がいくのだが,データの出典の文献リストが是非欲しい。ちょっとびっくりする記述が多いので裏をとりたくなるのは研究者の性で,研究者でない読者は気にならないかもしれないが。
でも,体質的に歯が弱いと思っている人とか,歯周病で悩んでいる人とか,もしかしたら,この本を読んだら救われるかもしれない。それが著者の願いか。