最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
時空ドーナツ | ハヤカワ文庫 |
著者 | 出版年 |
ルーディ・ラッカー(訳:大森望) | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
時空間がドーナツ状につながっているというアイディアを元に(このアイディア自体は物理学・数学的に言って,奇抜だが真面目に検討するに値するものらしい),世界を管理している人工知能とともにそこを一回りすることによって人工知能に自意識を植え付けようとした主人公の企てはどういう結果をもたらしたのか? という話。循環スケールを旅するVFGとか,ミニチュアブラックホール生成器とかSF的小道具盛り沢山。それらの小道具にはハードとしての説明は与えられないのだけれど,動作の目的に関する理論づけはされる。つまり,技術的詰めは狙っていないけれど,理屈好きの欲望も満たされるというわけだ。
実はラッカーの処女作の本邦初訳とのことなのだが,遊び心満載で,ラッカーは昔からラッカーだったのだなぁと妙に感心する。人工知能に管理された世界なんてつまんないよなぁ,壊しちまえ,イェイイェイ! それに人工知能が狂ったら恐いんだぜ,自分の頭で考えな,世界はロックンロールさ! というサイバーパンク的ノリの良さは,ぼくは大好きなんだけど,嫌いな人は嫌いかも。もっとラッカーのことを知りたい人には,大森望さんのあとがきと物理学者・菊池誠さんの解説も秀逸なので,買おうか買うまいか迷った方はとりあえずそこを立ち読みして決めたらいいと思う。
愛があるのだな。とくに結末にはジーンときた。ちょっと読み筋からは外れるけれど,ぼくがラッカー好きなのはこの辺の効果も大きい。