最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
東京下町殺人暮色 | 光文社文庫 |
著者 | 出版年 |
宮部みゆき | 1994(初出は1990「東京殺人暮色」) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
縄田一男さんの巻末解説が完璧なので,ぼくが書くことは何もないのだが,ちょっとだけ。
東京の下町を舞台にした,少年探偵小説。主人公の八木沢順は刑事の息子で,離婚のため父子家庭だが,こういう探偵ものにはよくある設定で,よくできた家政婦が介添え役を務める。
バラバラ殺人事件があり,現在の住民にとってはよそ者である偏屈な画家が疑われる。実はその画家こそが下町出身であるという皮肉な状況を知った八木沢順は,当初抱いた単純な疑いを捨て,真犯人探しを始める。やがて到達する意外な真実は……というのがおおよそのストーリーだが,はっきりいってトリックはないようなものだし,動機の描き方もアンフェアである。本格を期待してはいけない。しかし,八木沢順の出くわす人間模様と,それに伴う彼の成長の描写がすぐれているので,読める。うまい作品である。
よくも悪くも宮部みゆき的な。