最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
スナーク狩り | 光文社文庫 |
著者 | 出版年 |
宮部みゆき | 1997(初出は1992) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
この妙なタイトルの本は,ずっと気にはなっていたのだ。カバーの内容説明から,「スナーク」が宮部みゆきの創作だと誤解してしまっていたが,実は「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」の作者,ルイス・キャロルのエピグラムに出てくる怪物らしいということが,目次の裏の引用を見ればわかる(巻末の,著者による注記によれば,デアンドリア「スナーク狩り」(ハヤカワ文庫)の作中に引用されている訳文を引用したものだそうだから,孫引きであるが)。この怪物を捕まえると,幸せな気持ちを味わえると同時に,捕まえた人自身がこの世から消え去ってしまうという。この意味で(といっても字義通りの意味で消えるわけではないが),まさしくこの物語はスナーク狩りである。ちょっとしたきっかけで誰でも日常から逸脱しうるという意味では「火車」にも通じるテーマなのだが,達成感を伴う点でスナーク狩りの方が登場人物の心理に共感できた(個人的には)。
※ちなみに,スナークといえばhttp://bunjin6.hus.osaka-u.ac.jp/~satoshi/anthropology/on-line/snark/に「新スナーク狩り」という文書があって,これにも気を引かれるのだが,とりあえず関係はなさそうである。
解説に書かれているように,例によってディテールの描写力が優れているし,時間的にも地理的にも心理的にも多種多様な登場人物が一点に集約してゆくのは,サスペンスとして一流である。集約してゆく構成が凝っているので,粗筋は紹介しにくいが,よくできた小説であることは間違いないので,読んでみて欲しい。