最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
運動靴と赤い金魚 Children of Heaven | 角川文庫 |
著者 | 出版年 |
Majid Majidi[脚本],青林 霞[編訳] | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
各国で公開され,絶賛を浴びたというイラン映画のノベライズ。編訳というのはつまりは脚本を小説の形にしながら訳したということなのだろう。そのせいかどうか知らないが,薄い割に640円もする。扉から2ページあまりの,映画のシーン集(っていうのだろうか)の美しさは,この映画を見たいなあと思わせる。主人公のアリとザーラ兄妹役の子どもたちの可愛らしさだけでも参ってしまいそうだ。
たぶん,英語タイトルの方が本質をついている。邦題は,象徴的に使われるモノをつないだだけである。運動靴は貧困と希望の象徴,赤い金魚は生命の象徴であると思う。つまりは,貧困の中にあっても,希望を失わずに暖かい気持ちで生き,成長する子どもたちの生命力の物語である。その意味で,Children of Heavenの方が含蓄があるように思う。まあ,「天国の子どもたち」と直訳するよりは良いけれど。ちょっと狙いすぎのような気がして,ぼくは入り込めなかったけれど,映画だったら,作品世界に引き込まれて感動することだろう。
お使いの途中で妹の靴をなくしてしまったアリ少年は,貧乏な親のことを考えるとそれをうち明けることができず,自分の運動靴を2人で共用する生活が続くことになる。ザーリは午前,アリは午後にしか授業がないのだが,交替時間が短いので,2人とも毎日ダッシュすることになる。このとき,サッカーの試合に誘われても参加できなかったり,大金持ちの家で庭仕事のアルバイトをする父親にくっついていって,そこの子どもと話すうち,金持ちでも幸せとは限らないことを知ったり,といろいろな体験をする。そうこうするうち,テヘラン中の小学校3,4年生を集めて5キロマラソン大会をするという話になり,3等の副賞がスニーカーだというので,アリ少年は大いに燃えて出場する。毎日のダッシュはだてではないというわけだ。映画としてのクライマックスは,ここからのマラソンシーンだろう。結果は読んでのお楽しみ。