最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
天の瞳 幼年編 I,II | 角川文庫 |
著者 | 出版年 |
灰谷健次郎 | 1999(単行本は1996) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
元気をもらった。ありがとう,灰谷さん。
表面的にみると悪ガキである倫太郎と仲間たちが,ちゃんと本質を見抜いてくれる大人たちに囲まれて,すばらしい成長をする話である。二巻目の後半で出てくるヤマゴリラにいたって,やっと考えの足りない教育者がでてくるが,それを除けば実にみんながすばらしいのだ。現実の世の中がこんなだったら,ほとんどすべての問題は解決しそうだ。これを絵空事といって切り捨てるのは簡単だが,そうではなくて,心のもちようなのだということに気づくことだってできる。そうすれば,どんな状況にあったとしても,心が救われる。真の自由とは,そういうことだと思う。10年ほど前,大学の入学式のあと,灰谷さんの話があった。あの時の主張も,この本と同じく,真の自由を得ること,一生学ぶこと,が人が人であることだという話だったと思うが,同級生は,もったいないことに2/3くらいの人は聞いていなかったように記憶している。点をとる教育がなんと無意味なことか。学問にも人生にも正解などないことはわかりきっているというのに。
見方を変えると,達人の物語でもある。倫太郎の祖父にしても,保育園の園長,園子さんにしても,道を得ている。園子さんの「何かをする自由,何もしない自由」,「子どもに『添う』のが保育者の役割」,倫太郎の母親,芽衣の「何も言わないでおく愛情の難しさ」とか,名言が続出する。日常会話でこのレベルの道を得た発言ができる人がそうそういるとは思えないが,そういう養育環境にいたら,たしかに倫太郎やその仲間たちのように,曲がらずに育つだろうな,と思う。
なお,この幼年編は保育園の4歳児クラスから,小学校5年までを描いたものである。単行本では既に,その後中学生までを描いた少年編も出ているので,読もうと思う。
●税別705円(I),ISBN 4-04-352020-4(Amazon | honto);667円(II),ISBN 4-04-352020-4(Amazon | honto)