最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
バトル・ロワイアル | 太田出版 |
著者 | 出版年 |
高見広春 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
巻末のFrom Editorsというところを読むと,大変な問題作で,凄い衝撃度だなどと書かれているが,フィクションである以上,何も現実の中学生が生き残るための殺し合いをするなどという字面通りの読み方をする必要はないわけだから,「少年の自立をテーマとした不条理文学」と位置づけて,何も問題はない。「デス・ゲーム小説」などという分野があるのかどうか知らないが,本作品の意義を矮小化するレッテル貼りではないか?
そう,これは不条理文学である。カフカの「変身」の主人公ザムザが目覚めてみると何の前触れもなく大きな芋虫になっていたのと同じく,主人公の中学生たちが目覚めてみると,住民を退去させた島で殺し合いをして生き残った最後の一人だけが助かり,しかも死者が丸一日出なければ皆殺しされる,という状況に放り込まれている。もちろん背景はきちんと用意されていて,彼らの暮らす社会は,日本が第二次大戦に負けなかったらかくあろうかという全体主義国家「大東亜共和国」であり,毎年ランダムに選ばれた中学3年生が50クラス,「プログラム」と称する殺人ゲームに放り込まれることになっている。しかし,それに「あたって」しまう確率は800分の1以下なので,主人公たちを含め,一般には実感されないイベントとなっており,だからこそ彼らはそれを不条理と感じるのである(とはいえ,密かに囁かれる恐怖となっており,政治的統制力の源の一つである)。
物語は,中学生たちの中でも,七原秋也という少年の視点から語られてゆく。普通の中学生である彼らは,当初は協力してこの不条理な場から脱出しようと試みるのだが,中に入っていた1人のサイコパス(脳の器質性の障害により無良心)と1人のアダルトチルドレン(被虐児)は,躊躇うことなく自分が勝ち残るために殺人を始め,実際に殺人が起こるのを見て恐怖心を募らせた中学生たちは,何人かの例外を除いて,殺し合いをエスカレートさせてゆく(しかし,最初の殺人は,この2人によってではなく,イジメを受けていた普通の中学生が,恐怖心を募らせた挙げ句に引き起こされ,この物語の展開を暗示する)。普段とは違った本性をみせる同級生に接して人間というものに対する考え方が変わったり,自己認識を改めたり,悔いが残らないように恋を告白したり,と多様な対応を示す中学生たちの姿が,情景が浮かぶほどの綿密さで描かれる。つまり,不条理な極限状況にあって,彼らは成長してゆくのだ。しかも,この成長は社会化という方向ではなく,人間としての内面的成長である点に注意すべきと思う。
物語は,不良と思われていた転校生,川田が,危機にあった秋也を意外にも助けてくれるところから,意外な方向に転がってゆく。二転,三転するストーリーは,緊張感を盛り上げつつ,アッという(だが,頭のどこかでは希望的観測として思い描いてもいた)結末へとつながる。読んだときの興趣をそぐといけないから,これ以上詳しくは触れないが,冒険小説としても青春小説としても第一級のものである。
しかし,別の読み方もまた可能である。肉体的な次元で描かれている状況としては,なるほどこれはフィクションだが,精神的な次元に投影してみたらどうだろうか。これは紛れもなく現在の中学生を包む現実かもしれない。他人を蹴落とし,イジメを行い,教師には心を許せず,と報道される中学生の姿を想起すると,恐怖心から互いを信じられなくなって殺し合う姿が不気味なリアリティをもってしまうのだ。
この作品の評価が不当に低くなされることがあるとすれば,ときおり地の文の中に括弧付きで挿入される「合いの手」のようなことばや,3年B組の主人公たちを戦闘状態におくための管理者が坂持金発,部下の兵士たちが田原,近藤,野村(かつ野村はどことなく影が薄い)といった,作者の遊び心が気に触ってのことだろう。しかし,「3年B組金八先生」という,あの生徒を理解するような振りをしながら如才なく生徒を大人に成長させてしまうテレビドラマへの批判を読みとれば,一見たんなる遊び心の発露と見えたこれらの諧謔が,別の意味をもって迫ってくる。成長とは無批判に社会化することではなく,社会がおかしければそれを批判することも含むべきであり,その基準は自己の内面にあるのだ,という強いメッセージがここにはあるのだ。この作品が胸を打つのは,そのためではないだろうか。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
やや文章が変だったので修正した。
なお,話題作だけあって,WEB上に多くの書評が存在する。「独断と偏見のSF&科学書評」http://www.moriyama.com/1999/SF.99.4.htm#sf.99.4.07
「怒濤の本棚」http://www.imasy.or.jp/~beer/book/9904.html#990421
「KTR's Mystery Room」http://www.din.or.jp/~ktr/Mystery/review04.html#BATTLEROYALE
「幻影の書庫」http://www.sf.airnet.ne.jp/tsuki/9906.html#anchor89285
「高川朋和の世界」http://www.pp.iij4u.or.jp/~tomotaka/BOOK/book9904.html#batorurowaiyaru
「航天機構 -ブックレビュー-」http://www2a.biglobe.ne.jp/~mizuki/book/review/bk990704.htm#BATTLE
「ざ・ぼん」http://www.bea.hi-ho.ne.jp/madoka/book/t_battleroyale.html
などなど。他にも多数あるが,意外に「少年マンガ的」という評価が多いなあ。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
本書中のサイコパスと同じことが実際にありうるらしいことが最新のNature Neuroscience<http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews991027/bionewsj-991027c.htm>で報告された。本書の設定がよく考え抜かれたものであることがわかる。
その後見つけたのだが,本書のファンサイトを作っている人がいた。
バトのペイジ<http://plaza.harmonix.ne.jp/~satto/br/battleroyale.html>と
BATTLE ROYALE mogu2 EDITION <http://www.sm.rim.or.jp/~mogumogu/batorowa/bato_index.html>
である。イラストや本書の設定を借りたオリジナルストーリーまであり,本書への思い入れの深さを窺わせる。ここまでやる人がいるとは驚いた。
イカコ <tsu5ds16.mie.mesh.ad.jp>
この小説を「不愉快だ」の一言で落としたという選考委員は、もう若くないと思いました。確かに設定は不愉快と言えるかもしれません。でもこんなに心が痛い小説はそうは
ないです。人が死ぬということ、人を殺すということ、人を好きになるということ、選ぶということ、そういう全て
の答えのひとつがこの小説なのではないでしょうか。
マスコミ的なブームになれば確かにヤバイかも知れません
でもこの小説でしか感じられないものがある限り、この小説を読む人もこの小説に感動する人も増え続けると思います。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
青木みやさんが書評を書かれた(http://member.nifty.ne.jp/live/books/fiction/k-tamami.htm)ので知ったのだが,阪大の小田さんという方が,「バトル・ロワイヤル」評リンク集(http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/~oda/yomu/battlelink.html)というページを立ち上げていた。
何度も書くようだが,それだけ多くの人が心を揺さぶられた作品だったということだろう。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
Yahoo! Searchで検索したら,またもや強力なファンサイトを見つけたので,書いておく。それにしても女性ファンによる三村信史への思い入れ度というのは凄いモノがあるなあ。
「THE THIRD MAN」<http://www.asahi-net.or.jp/~AK6T-KNN/third/indext.htm>沖木島のクリッカブルマップや名簿形式での生徒たちの詳しい紹介があるが,8月時点で中断された模様なのが惜しい。
BATTLEROYALE <http://www.haru.mesa.yamanashi.ac.jp/~roon/br/>全生徒のイラストとその解説がよい。他のファンサイトとは絵柄が違うのに意表をつかれた。
リンク集としては,「バトル・ロワイアル★書評リンク集」<http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/6523/BattleRoyale.html>が充実している。残念ながらこのページへのリンクはないが。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
BATTLE ROYALE DATABASE <http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Vega/3595/2index.html>は極めつけかと思う。
専用のBBSは現在進行中である。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
知人からメールで教えてもらったのだが,
作家の我孫子武丸さんが,「ごった日記」
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/abiko/diary.htm
の2000年6月4日?5日で本書に触れている。ぼくの読みでは,不条理であればあるほど作者の
狙いは達成されたことになるので,我孫子さんの
読みは,SF読み的な思い入れのしすぎというか,
狭量に過ぎる。もちろん,いろいろな読み方があって
いいのだが。
E. Shioda <3.pool2.ipctokyo.att.ne.jp> website
誉め言葉だと思って、聞いていただきたい。
「バトルロワイヤルは、スケバン刑事だ」
間違っても南野陽子のテレビ版スケバン刑事(それはそれでわたしはファンなの
だが)を連想していただきたくないし、ましてや斉藤由貴版、浅香唯版は論外、
あくまで「和田慎二のオリジナルのスケバン刑事」を連想していただかないと、
困ってしまう。では、あらためて聞いていただきたい。
「バトルロワイヤルは、スケバン刑事だ」
高校生のくせに(高校生だから?)、命かけて暴れまくるやつら。去年わたしは
読み直してカルチャーショックを受けたところだったし、プロレスに弱いわたし
が初めてバトルロワイヤルという言葉を学んだのもスケバン刑事――後半部で、
サキや仲間たちが東京大停電の元凶を倒しに高速道路に屍の山を築いたシーンの
ことだった。これ以外、今日は書くことがない。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
2000年12月16日に映画が公開されるようだ。
オフィシャルサイトを見つけた。
http://www.battle-royale.com/officialsite/trailer/index.html見に行くかどうかは,まだ決めていない。
KIDO MAKO <urwca-0216p83.ppp.odn.ad.jp>
omosiroiyo
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
「バトル・ロワイアル・インサイダー B.R.I.」(http://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/20010118120401.html)という本を読んで,映画は見ないことに決めた。
なお,上記B.R.I.にも原作である本書のWEB書評がいくつか紹介されていたのでリンクしておく。
書評軍団(読書帝国其の壱)
http://www01.u-page.so-net.ne.jp/gc4/d_kami/Books1.htmGooBoo Mysteries(1999年下半期7月第2週)
http://www.cc.rim.or.jp/~yanai/GooB34.html書評日記 第522冊
http://www.speed.co.jp/marenijr/book/book0522.html暗黒書評
http://www4.justnet.ne.jp/~t_kaname/book/#011EKOEKO AZARAK私設ファンページ(Master's Diary)
http://www.catnet.ne.jp/aso/index199904.html