最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
01-01-00 | アーティストハウス |
著者 | 出版年 |
R.J.ピネイロ([訳]鹿野和彦) | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
手にした瞬間には,最近たくさん出ているY2Kパニックものかと思ったのだが,帯の「マヤ」という文字を見て改めてカバー裏の粗筋を読んでみたら考古ものであるばかりかSETIものでもあり,いうなればSFなのだった。謎のコンピュータ・ウイルス,マヤの暗号,遺跡の迷路といった小道具がなかなかうまく配置されているし,スペツナズの残党とSEALが銃撃戦をしてみたり,マヤの末裔が吹き矢で戦ってみたり,毒蛇や大ムカデを武器として使ってみたり,独創的な説を次々と発表する天才考古学者がいかにもフィールドワーカー的な雰囲気を漂わせつつワニに襲われたSEAL隊員を助けてみたり,ネットワーク犯罪のせいで夫と娘を失った復讐心を糧に数多のネットワーク犯罪者を捕まえてきたヒロイン,FBI捜査官スーザンが魅力的な美女であって,件の考古学者との出会いから恋心を募らせてみたり,とB級映画のようなサービス精神は旺盛なので,冒険活劇としては,そこそこ楽しめる。また,マヤとSETI絡みの仕掛けはSF的アイディアとしても悪くない。暗号が指示していたことというのが少々安っぽい気がしないでもないし,01-01-00にいったい何が起こるのかと期待させたわりには,あの結末はやや物足りない。<http://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/0511103601.html>(梶尾真治「OKAGE」)の仕掛けがわかったときに感じたのと似た拍子抜けを感じてしまうが,本書は冒険活劇として優れているので,そう割り切って読めばその辺は大きな傷ではない。ちょっと値段が高いけど。
最大の傷は,2進10進換算をするのに紙とペンをくれというスーザンの間抜けさである。日夜ウイルスパターンを読んでいるというから,当然16進か8進のダンプコードは見慣れている筈の彼女が,6ビットの2進10進換算が一瞬でできないというのは,どう考えてもおかしい。もっとも,もしかすると,スーザンの恋心を示すための意図的な馬鹿描写なのかもしれない。その場合,この場面の訳が悪いことになる。訳はいくつか腑に落ちないところもあるが,まあ全体としては読みやすいので,この場面だけ悪いとは思えず,とすればやはり作者がスーザンの造形に失敗していることになる。コンピュータものとしては致命的なミスといえよう。