最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
最後のディナー | 原書房 |
著者 | 出版年 |
島田荘司 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
原書房からマンガで出ている,石岡さん(名探偵,御手洗潔の事件の記録役で,ホームズに対するワトソンみたいな役回り)を主人公としたシリーズ本に島田荘司が寄せた既出の中編2つに,「大根奇聞」を書き下ろしで加えたもの。何よりも描写が美しい。オビの惹句に「心が痛むほどの透き通った愛を描く」云々とあるが,肯ける。「龍臥亭事件」後の世界を描いており,時間的にも連続しているために,物語に厚みが出ている。御手洗はオスロで研究生活に打ち込んでいるという設定なので,本書に入っている3作では直接活躍することはなく,石岡さんにアドヴァイスするだけである。その意味では,安楽椅子探偵ものともいえる。トリックと言うほどのトリックはないから本格推理小説ではないが,不思議な現象に気が利いた解釈を与える,という意味では満足のいく驚きは与えられる。
この本は,石岡さんの人物設定が巧みなのと,本としての装丁が美しいこと,3つの物語を通じて奏でられる人間愛の美しさ,情景描写の細やかさ,読後感の良さなどが相俟って,何度でも読み返したくなる良さをもっている。ファンは必読と思うし,あまりにクリスマスプレゼント向けに狙われ過ぎた作りであるにせよ,万人に薦められる佳作である。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
と思ったけれど,龍臥亭を読んだ後でこれを読むと,おいー,石岡さん,犬坊里美に対してその態度はないんじゃない? といいたくなるなあ。