最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
天の瞳 成長編 | 角川書店 |
著者 | 出版年 |
灰谷健次郎 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
幼年編,少年編に続き,中学生となった倫太郎たちが客観的視点を獲得していく,いいかえれば社会化してゆく「成長編」である。まだIしかでていないが,続きが出版され次第ここに追加することにして,紹介してしまおう。フローラ上野ブックガーデンでは平積みになっているから,意外にファンが多いのかもしれない。
成長編Iは,倫太郎たちが保育園時代につきあった保母である「リエぼう」の結婚式から始まる。この結婚式の描写がとても良い。良いのだが,普通はそこまで親に理解して貰うのが大変なのだ。リエぼうと髭くん夫婦は,その点きわめて恵まれている。話は,その結婚式に出席していた,倫太郎たちの中学の教師の中でも良心といえるような3人との対話を経て,荒れる学校をどうしていけばいいのか,学校に関わるすべての人が主体的に考えなくてはいけないという方向へ展開するのが粗筋であるが,諸所に挿入されるエピソードがまた示唆に富んでいて,いろいろ考えさせる。続編が待ち遠しい。
苦言を1つ。人間の不完全さをいいたいためと思うが,倫太郎たちが酒を嗜む描写は感心しない。成長期の脳にとってアルコール及びその代謝物は毒物であって,飲まない方がよい。多くの伝統社会でも,アルコールは成人男性が儀礼のときにのみ飲むことを許されるものであった筈だ。ある地方ではそれを許容する文化があったとしても,倫太郎たちにはそうさせないで欲しかった。……というのは,ぼくの価値観の押しつけになるのかもしれないが。
ついでに,どうでもいいつっこみを1つ。髭くんが酔ってやらかす替え歌の歌詞って,関西を舞台としたこの作品ではおかしいのでは?
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
2001年2月に,「成長編II」が出版された。相変わらずさわやかな読後感であり,達人の物語であるには違いないが,非行グループの内実を描くことに躊躇いがあるような気がした。わざとだろうか。