最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
BH85 | 新潮社 |
著者 | 出版年 |
森青花 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
第11回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作である。帯に“なごみ系”パニック小説と書かれているのから想像される通り,新井素子風味を漂わせている。イラストも吾妻ひでおだし。簡単にいうと,新開発の育毛剤,コード名BH85が,ごく一部の例外を除くあらゆる生きものと融合しながら全世界を覆ってしまうという話である。例外たちがこの異常状況に対してどう振る舞うかということが,一人称視点で語られる。しかし,この作者は新井素子ほど「やさしく」ないし,文体もごく普通なので,拒絶反応を起こす人も少ないだろうが,熱狂的に支持する人もまた少なそうである。
初めはマッドサイエンティストものかと思ったが,モンスターが偶然の産物なのが弱いし,BH85の発明者である毛利くんはどんどん普通の人になっていくので,そうとも言い難い。さりとてかつての小松左京作品に見られるようなパニックの細かい描写があるわけでもない。シミュレーションのディテールにこだわる気がないのだろう。しかも,モンスター誕生のしかけを科学的に見ると穴が多いので,ハードSFでは絶対にない。
しかし,もちろんこれはファンタジーなので,上に書いたことはどうでも良いのだ。作者の妄想を絵画的にあるいは文語的に楽しめれば,上質のファンタジーといえるし,この作品はその条件を満たしている。ビジュアルとしてのBH85のイメージがしっかりしているのがうまい。タイトルの意味が明らかにされるオチも結構好みだ。とすれば,帯の“なごみ系”パニック小説というのは,言い得て妙というべきか。