最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
地球人口100億の世紀 人類はなぜ増え続けるのか | ウェッジ選書 |
著者 | 出版年 |
大塚柳太郎・鬼頭宏 | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
少子化とか人口爆発とかが問題になっている現在,これらの問題を考える上で教養として知っておくべきことがらを,コンパクトにまとめた本といえる(現在青空ML<http://www.bluesky-ml.org/index.html>で少子化について議論が交わされているが,ああした議論をするにも,本書,少なくとも第8章くらいの内容は知っていると深まると思う)。科学書としてみると,これから面白くなるべきところで各々の話題が終わってしまうので,やや欲求不満が残るのだけれど,本書は,おそらく「地球人口」の意味を考える上で必須の視点を,できるだけたくさん提供することを目的にしているので,その意味では成功しているのだろう。データとともに論考がなされているので,説得力もある。
実は著者はお二人とも知り合い,というか大塚さんは研究室のボスなので,この本もタダでいただいたのだが,お世辞でなく良くできた教養書と思う。しかも,それだけではなくて,第3部の鼎談は非常に示唆に富んだもので,刺激的である。紙幅の都合か,やや説明不足のところや言い切り過ぎの点が若干見受けられるが,バランスとしては仕方のないところだろう。より詳しく知りたい方は,http://minato.sip21c.org/demograp.htmをご覧くださると良いかもしれない(とくに第4章と第6章の補完としては,http://minato.sip21c.org/demotran.htmlが参考になると思う)。
目次は帯にも書かれているが,次の通り。
1.人類生態学からみた人口(大塚)
第1章 人類史のなかでの人口問題
第2章 人口支持力と人口密度
第3章 伝統社会での事例
第4章 出生・死亡の構造を変える人口転換
第5章 真のK戦略者への道
2.人口減少のメカニズムと先進国の行方(鬼頭)
第6章 近代工業化と人口転換
第7章 文明の成熟と少子化
第8章 人口減少社会と地球環境
第9章 江戸後期は適度人口社会か?
第10章 長寿命社会を生きる
3.人間圏の限界と「人口」の意味(大塚・鬼頭・松井孝典)
I 人類はK戦略者に戻れるか
II 社会システムの成熟がもたらしたもの
III 地球人口100億の世界
IV 新しいユニットの構築に向けて
徒然三十郎 <snjk034k067.ppp.infoweb.ne.jp>
壮大な時間スケールで人口問題を考えるのは面白いのですが、もう少しデータのとりあつかいにご配慮いただけたらと思います。
本書の内容では21世紀を通しての世界人口の推移が重要なので、2050年までについての国連の1998年推計(これにもとづいたより長期の推計は最近発表された)は無視してもよかったのではないかと思います。また、1998年の日本の合計特殊出生率1.38も重要な数字と考えられますが、1.36(p.63)になったり1.37(p.89)になったりしています。
第3部の鼎談では厳密さの欠如が気になります。例えば、「・・・三〇歳から三七歳では独身は一九・七%になる。」(p.220)という鬼頭氏の発言がありますが、この19.7%という数字は1995年の国勢調査による30-34歳女子の未婚割合ではないかと考えられます。少なくとも性別は明示した方がよいでしょうし、誤植があったとすればお気をつけいただきたいところです。
それから、あげ足をとっているのかも知れませんが、大塚氏による文章について一言つけくわえます。中国の「一人っ子政策」に関して「・・・第一子が女児の場合には第二子の出産が認められていることである。このことは、きわめて歪んだ性比をつくりだすはずである。」(p.71)とあるのですが、第1子が女児の場合に限り第2子を産むというやり方それ自体は性比に影響をあたえないはずです。