最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
戦後教科書から消された文部省唱歌 | ごま書房 |
著者 | 出版年 |
濤川栄太 | 1997 |
徒然三十郎 <tkyo4204.ppp.infoweb.ne.jp>
著者は、音楽の教科書から唱歌が抹消されることに激しい憤りを示しますが、その一方で軍歌に対してはまるで冷淡です。本書のサブタイトルが「心の歴史を奪う権利は誰にもない」であるにもかかわらず、「たとえば天皇のために潔く一命を投げ出そうなどという軍歌の類は、抹消されてしかるべきだ」と言い切ってしまいます。「広瀬中佐」や「水師営の会見」は歌い継ぐべき唱歌に分類されているのですが、信時潔作曲「海ゆかば」はどうやら抹消されてしかるべき軍歌らしいのです。そうかと思えば「たとえ戦争の匂いのする歌でも、事実として歌いつごう」という文句がゴシックで登場するありさまで、全く理解に苦しみます。
それから、広瀬中佐について「ボートに乗り移ろうとしたその瞬間、不幸にして弾丸が命中してしまったのである」とありますが、弾丸にあたったのは部下の待つボートに乗り移ってからのはずです。すなわち、広瀬は杉野ひとりの命にこだわることによって他の多くの部下の命を危険にさらしていたのであり、これは広瀬中佐の美談の大きな問題点です。
三木露風作詞「赤とんぼ」の3番を抹消してはいけないという正論中の正論も述べられています。念のため。
徒然三十郎 <tkyo4135.ppp.infoweb.ne.jp>
著者の「海ゆかば」に対する見解は「もしあのような用いられ方をしていなかったら、永く残されてしかるべき名曲だったと思う」ですが、こういう論法に屈しない人もいます。今日(2000年2月20日)、ソプラノ歌手藍川由美さんのコンサートに行ったら、「椰子の實」などの他、しっかり「海ゆかば」も歌っていました。永く残すべき名曲との認識を新たにしました。