最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
遺伝子組換え企業の脅威-モンサント・ファイル- | 緑風出版 |
著者 | 出版年 |
『エコロジスト』誌編集部[編],アントニー・F・F・ボーイズ/安田節子[監訳],日本消費者連盟[訳] | 1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
本書は,買収や合併を繰り返して巨大多国籍企業となったモンサント社が,これまでPCB,エージェントオレンジ,ラウンドアップといったヒット商品を売りまくり,FDAと怪しいつながりをもちながら業績を伸ばしてきた様子を克明に描き出し,その過程でどのように生産者に圧力を加え,消費者に情宣を行ったかという手口を暴き,ラウンドアップレディの遺伝子組換え作物とターミネータ技術を使って世界の農業を牛耳ろうとしている現状に警鐘を鳴らしている。英国の雑誌『エコロジスト』の1998年に出た28巻5号の全訳である。直訳調で生硬な訳文が散見されることと,いかにもエコロジスト的なワンサイディッドな論調には閉口するが,化学薬品や遺伝子組換え産物の問題を考える上で参考になりそうな豊富なデータは役に立つので,こういった問題に関心のある人は,一読しても損はなかろうと思う。巻末に引用文献リストもついているので便利である。
モンサント製のrBGH(遺伝子組換えウシ成長ホルモン)を投与された雌牛は,たしかに産乳量は増えるが,乳腺炎を起こしやすくなり膿が混じるので,その治療のために抗生物質が加えられることになるし,しかも牛乳は米国では生産過剰であるから産乳量を増やす必要がもともとなかったとか,モンサントとFDAの人事交流とかいう話を読むと,腐っているのはいずこも同じかと嘆かわしく思う。ターミネータ技術に関連してなされた発言「農民が種子をとっておくという何世紀にもわたる古いやり方は,第三世界の農民たちにとって,はなはだしく不利である。彼らは『安易な道』を選んでしまい,もっと新しく,もっと収穫量の多い品種を植えないがために,時代遅れの品種に不本意ながら縛り付けられてしまうのだ」は,MS社がコンピュータのOSという分野でやっているのと同じであり,爆笑してしまった。同じ土俵で競争するのでない限り古くてもいいはずだし,環境が違うところで土俵が同じ筈はないのだ。巨大企業の手口は,物欲を煽ってもともとはなかった需要を生み出すという点で共通しているように思う。経済成長,というのはつまりはそういうことなのだから,これを悪といいきるのには勇気がいるけれど。