最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
彼は残業だったので | 光文社カッパ・ノベルス |
著者 | 出版年 |
松尾詩朗 | 2000 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
御手洗パロディ・サイト事件(書評は
http://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/20000525173337.html)で中学校の先生で同姓同名の人がいる,と言及した松尾詩朗だが,やはりあれは別人だったらしい。本書でプロデビューしたので著者紹介を見たら,コンピュータSEをしながらミステリーを執筆している方だった。うまく(悪く言えばこじんまりと)まとまった探偵小説ではあり,文章のテンポや人物造形はうまいので,それなりに読める。恐妻家(愛妻家というのが正しいかもしれないが)である語り手とか,人物像はけっこう魅力的なので,キャラクタ小説としての探偵小説の流れはつかんでいると思う。誉めすぎたので多少批判もしておこう。この作品は,占星術殺人事件の「記号を使った」と島田荘司はいうが,言い換えると,占星術殺人事件の影響が強すぎて独自性をほとんど感じない。警察はそれほど甘くないので,本書のトリックはトリックとして成立していないように思う。氷川透は小峰元的な青春推理っぽさが味がある上,トリックそのものは島田荘司とはまったく違っている点で将来性を強く感じるのだが,松尾詩朗の場合,造形がうまく書けているとはいってもステロタイプからあまり脱していず,独自の味を感じたのは唯一寅さんに関連したところくらいだった。寅さんがらみで探偵役の立花に味を重ねていくと,ひょっとすると大化けするかもしれない。