最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
密室は眠れないパズル | 原書房 |
著者 | 出版年 |
氷川透 | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
「真っ暗な夜明け」(簡単すぎる書評はhttp://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/20000628162454.html)でデビューした氷川透の第二作。とはいえ,この作品は1997年鮎川哲也賞の最終候補に残ったものを書き直したそうだから,実はこちらの方が先に書かれたのではなかろうか。
「真っ暗な夜明け」や,「御手洗パロディ・サイト事件」(書評はhttp://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/20000525173337.html)の「横浜スタジアム事件」と同じ,青春推理っぽさを漂わせながら,骨格は実に古典的な本格謎解き小説である本作品は,氷川透の本格宣言である。
理系ミステリと呼ばれる森博嗣がコンピュータなどの小道具に溺れることによって時間が経ったら陳腐になってしまう危険を冒しているのとは対照的に,文系的ロジックの緻密さが冴えている氷川透の作品は,時を超えた普遍的価値をもつだろうと感じさせる。もっとも,ロジックの複雑さが西澤保彦ほどではないため,ロジックだけで読ませるにはやや弱いかもしれないが,これが物語性とロジックの折り合いをつけるぎりぎりの線かもしれず,とすれば作品中での著者の投影である氷川透の科白として出てくる「本格推理は,古典芸能なんですから,カビくさくてあたりまえです」には,その綱渡りをやろうとする意気込みを感じ取るべきなのだろう。次の作品にも期待。