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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『マメな豆の話 世界の豆食文化をたずねて』

書名出版社
マメな豆の話 世界の豆食文化をたずねて平凡社新書
著者出版年
吉田よし子2000年



Jul 14 (fri), 2000, 20:09

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

ちょっとスタンスが中途半端(体験記と百科事典の間で揺れていて)なのだが,豆についての教養書としては他に類を見ない充実した記載に満ちている本書は,世界の食文化とか変わったレシピとか食糧問題とかに関心がある人なら読んで損はないと思う。ここまで世界中のありとあらゆる食用豆に触れてくれるのなら,どうせなら百科事典風に仕上げてくれると,もっと読みやすかったのではないだろうかとは思うが。

科学のプロではないせいか,ワーディングが厳密さに欠ける点が時折ある。例えば,低緯度地方が「熱帯」と言及されるのは,明らかに間違いである。熱帯というのは気候区分であって,緯度を示す言葉ではない(しかし,まあ一般読者にはどうでもいいことかもしれない)。

しかし,いろいろな珍しい豆への言及は,これらの欠点を補ってあまりある。たとえば,シッキムの人が納豆好きとか,インダス文明の重さの基準になっていたラティという豆のこととか,コーヒー園で日陰樹として植えることが可能なパカエとかバーソール,パプアニューギニア(セピック地方か?)でタンパク源として重要なシカクマメの利用慣行の話とか,フランス料理の本には出てこないけれども実はフランスの生産量が世界一なエンドウマメとか,最近ツタンカーメンの墓から出たエンドウの種が出回っていてプランタで育てられるとか,興味深い話が山盛りである。なかでもフェヌグリークに未知の薬効成分があるかもしれないという話は面白かった。

一方で,生態影響的な考え方はまったくないらしいのは,あまりにも鈍感ではないだろうか。アンデスで開発された甘いタルウィーを野生のルーピンがそばにある場所に植えると「たちまち交雑で苦くなる可能性が非常に高い」といったり,青酸配糖体を含むために漉し餡製造用を除いてリママメの日本への輸入が禁止されているのを,「アメリカとくにカリフォルニアでは,リママメの青豆が毎年10万トンも生産されているという大切な野菜なのに,日本では生はおろか冷凍品もめったに見られないというのは,本当に残念だ」といったりしている点から考えると,著者は遺伝子汚染など考えたこともないのだろう。食文化研究の立場でもこれはまずい考え方で,どこへでも輸出できてしまったら,地域独自性がどんどんなくなってしまって旅の面白さだって薄れてしまうと思う。

なお,p.222の記載では,フェイビズムがソラマメアレルギーのように見えるが,抗原抗体反応ではないから,アレルギーとは呼べない。G6PD欠損のために酸素複合体に反応してしまう(http://minato.sip21c.org/m4.htmを参照)ことくらいは,ちょっと調べればわかるはずだ。改版の際には訂正して欲しい点である。

●税別760円,ISBN 4-582-85038-3(Amazon | honto


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