最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
新装版 ひらけ! 勝鬨橋 | 角川文庫 |
著者 | 出版年 |
島田荘司 | 1999年(初出は1987年カドカワノベルズ) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
良い話だった。巻末の角川文庫版あとがきによると,今回の新装版に際して,全体に渡って加筆修正したということである。ストーリーは「サテンのマーメイド」や「夏,19歳の肖像」あたりに共通する,人間のどうしようもなさを描きつつそれがユーモアで包まれているという英国的な雰囲気で彩られていて,かつスピード感があって,最近の作品の重さとは全然違うのだが,文章のうまさは最近の作品並になっていて読みやすかった。つまりは傑作と言っていいと思う。
単純に言ってしまえば,拠出金額に応じて階級社会になっている老人ホームで,若い頃スポーツカーなどモータースポーツに入れ揚げたせいで破産して拠出金ゼロとなり,最下層にいて馬鹿にされているゲートボールチーム「青い稲妻」の面々が,館長が詐欺に引っかかってヤクザに明渡しを強要されるという老人ホームの危機に際して立ち上がるという話である。
ヤクザチームとのゲートボール勝負も捨てがたいが,やはりクライマックスのカーチェイスシーンが手に汗握る最高の迫力(そしてちょっとだけのほろ苦さ)で読む者に迫ってくる。テーマとしては何歳になっても夢を諦めるなということだろうか。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website