最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
南の島に暮らす日本人たち | ちくま文庫 |
著者 | 出版年 |
井形慶子 | 2000年(単行書は1997年) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
オセアニアに没入していないだけに,感覚が普通なのがぼくには新鮮だった(ぼくの感覚とはずれているということだが)。
歴史的事情とか鳥瞰的な視点とか価値観の相対化は中途半端なのだが(解説者も含めてキリスト者なので,キリスト教がミクロネシアの島々に何をもたらしたのかという意味を問い直そうなどとは考えないあたり,池澤夏樹がハワイイの原点に突っ込んでいく態度に比べると浅いといわざるを得ない),著者はそれを目指しているのではなくて,徹頭徹尾「自分語り」を意図している文章なので,自分の人生に正面から向き合おうとする大人の正直な気持ちの吐露になっていて,素朴に感動を覚える。
村山由佳の「野生の風」の決め科白みたいに一言余計な気もするが(例えばp.160「多分,それは距離よりも,日本というシステムからかけ離れた場所に来たんだという思いだった」とか),主なターゲットとなる読者層にはその余計な一言が好まれるのかもしれない。こういうの,ケレンっていうんだっけか。なお,巻末の解説が実に的確に指摘する通り,この本の本質は著者の魂への旅であり(解説者は適切な訳がないと惚けているが,ヤマト言葉ではspiritは「たましい」である),それだけに,こういうのを削ぎ落とした生のコトバで読んでみたいと思った。