最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
駒場の七つの迷宮 | カッパノベルス |
著者 | 出版年 |
小森健太朗 | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
1980年代半ばの東京大学駒場キャンパスを舞台にしたミステリ。メインの謎の鍵となるトリックにも無理があるし,考える鍵の出し方もフェアではないので断じて本格ではないが(ミスディレクションのしかたも本格のコードを裏切っている),経済的な理由から伯父が主宰する宗教団体の学内サークルの勧誘員をしている語り手「ぼく」のキャラクタは80年代半ばの駒場にはたくさんいたモラトリアムノンポリ学生を思わせて立っているし,アクロバティックかつ予定調和的な展開が西澤保彦を連想させた。カバー写真が駒寮内部なのが妙に懐かしい。しかし,学生会館の描写に輪転機の臨場感が足りないとか,寮食のおはようセットが出てこないのは不自然だとか,民青とノンセクトラジカルを左翼としてまとめてしまうのは当時の駒場の雰囲気を矮小化しているとか,統一教会=原理研を仮名にする意味がどこにある? とか,著者と同期で駒場時代を過ごした者にとってみれば食い足りない点があるのも確かである。レリーフは確かに「ト」と「グ」が落ちてレーニン体育館だったけれど,普通はトレ体と呼んでいたし(それとも文系は違ったのだろうか?),語学クラスに触れないのはおかしいとか,図書館の書庫には当時そんなに本が積まれてはいなかったはずだし,ぼくがアルバイトでコンピュータ管理のためのラベルを本に貼ったのは1986年2月頃だったように記憶しているから当時OPACは無効だったのではないかとか,現実の駒場ノスタルジアという観点から文句をいえばきりがないのだが,あの時代のあの場を舞台にした初めての作品だから,その意欲は買いたいと思う。
それにしても駒寮って不思議な空間だったよなあ。