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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『幼稚園が変わる 保育所が変わる 自治体発:地域で育てる保育一元化』

書名出版社
幼稚園が変わる 保育所が変わる 自治体発:地域で育てる保育一元化明石書店
著者出版年
森田明美【編著】2000年



Nov 07 (tue), 2000, 12:04

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

個人的には保育一元化は名案だと思う。地域社会が崩壊した都市ではとくにそうだ。

この本が非常に気を遣って観察しているのは,一元化した場合に幼稚園児が早く帰ることを保育園児が羨まないかということだが,どのケースでも大人の懸念に反して,子どもはすぐ慣れるということである。ぼくが保育園に迎えに行っていたときの観察でも,延長保育の子が早めに帰る子を羨むことは(年度始めはちょっとあるにしても)ほとんどなかったから,いろいろな事情の子がいるという多様性を身に染みて理解できる能力を子どもは本来もっているのだと思う。誰もが同じように振る舞うという平等主義は(自然にそうならいいのだが,無理して平等にしているなら),かえって子どものポテンシャルを落とすことになるのではなかろうか。大事なのは子育てとは何なのかというフィロソフィーである。

ぼくは,子どもは親が育てるなんてのが傲慢な考え方で,地域社会の中で育つというのが本来の姿だと思う。だから,保育一元化がなされた場合,保育園を地域子育てセンター化するならば,敢えて早く帰る子どもをつくる必要はなく,全員を夕方まで保育するということでいいと思う。そうしたとき,たぶん最後に残る問題は,給食だろう。学校給食にも通じるのだが,低年齢であるだけにより問題は大きいと思う。食物アレルギーの問題もあるし,食品添加物や食品汚染といったことも問題となりうる一方で,給食費も出したくないし,弁当も持たせたくないという親がいたら,行政としては対処できないかもしれない。全国どこでも加納小学校みたいな給食ができればいいが,それは無理だろうから,もっとよくしてやりたいと不満をもつ親も出てくるだろう(その場合は保護者の間でムーヴメントを起こして改善すればよいのだが,そこまでできずに不満が燻る可能性もある)。取りあえず実践してみるしかないような気もするが,生存の必要条件であるだけに,食の問題は難しいのである。

なお,本書によれば,地域の需要から保育一元化を進めようという声があがったとき,教育と福祉という行政区分が障壁となる場合も多いようだ。これは実に馬鹿馬鹿しいことで,和歌山県白浜町,滋賀県余呉町,大阪府交野市のように幼児対策室によって幼児の教育・福祉は一元管轄しているところが現にあるのだから,自治体レベルで抜本的な組織再編をすることは不可能ではないはずだ。既に遅きに失したが,国政レベルでも来年の省庁再編に組み込まれるべきであったと思う。

ともかく,いろいろ考えさせてくれる本である。これだけ資料がまとまっていると参照するのに実に便利だというのも特筆すべきだろう。巻末近くには,昨年暮れに出た新エンゼルプランの要旨まで載っていたし,子どもが育つ環境を考える上で必読書といえるだろう。

●税別1300円,ISBN 4-7503-1318-1(Amazon | honto


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