最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
縄文農耕の世界 DNA分析で何がわかったか | PHP新書 |
著者 | 出版年 |
佐藤洋一郎 | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
三内丸山遺跡で出土した栗から抽出したDNAと,現在青森や北海道南部に自生している栗のDNAで遺伝子の多様性を比較して,三内丸山の多様性が低いから縄文時代に栗は栽培されていた(選択的植え付けをされていた)のではないかと推論する前半も,農耕と自然の関係をいろいろと生態学的に考察する後半も面白いが,編集者が3人も関わったせいかどうかしらないがその前後のつながりが弱く,かつ栽培化そのものに関する考察は薄いのがやや残念である。ヒトの研究者ではないから,松井健「セミ・ドメスティケーション」(海鳴社)ほどのダイナミックさはもとより求めるべくもないが,それなら後半のような展開よりも,前半をもっと厚くして欲しかったと思う。縄文の栗には系譜上2種類あったかもしれないと推論した後,p.80で「将来のDNA分析の結果を待ちたい」と書かれてしまうとちょっと脱力するのである。どうせなら,そのDNA分析が終わってから,前半だけの論旨で1冊の本にまとめた方が良かったのではないだろうか? 後半は後半で生態学の思想をわかりやすく書いた本として,高校の生物学で生態学を教えるときの参考書として推薦したいくらいの内容だが,タイトルからは離れてしまっているように思った。むしろ,例えば松井健さんとの対談にして,佐藤さんの発言に対して松井さんがつっこむという形にしたら,すごく面白い本になりそうだと思うのだが,誰か企画しないだろうか? それでも,前半部分で,三内丸山の栗が1本の木から採られた実だから多様度が低い可能性があるという批判に答えて,栗は他殖性だから1本の木でも繁殖集団全部を見ても多様性には差がない筈だと反論し,現在自生している栗の木から1本に生った実を集めてDNA分析をして,それを実証したくだりなど,大変エキサイティングで面白かったから,読んで損はない本だと思う。