最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
フレンズ シックスティーン | ハルキ・ノベルス |
著者 | 出版年 |
高嶋哲夫 | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
「イントゥルーダー」(http://minato.sip21c.org/bookreview/oldreviews/19990802131435.html)で彗星のように現れた高嶋哲夫の第3作。
タイトルからの予想通り痛い青春小説だった。紆余曲折を経ながらも若者が目標に向かって努力し,ある意味で目標を達成するという点では,「夏のロケット」と通じるものがあるのに,こんなにも痛いのは,目標が夢と呼べない破滅的な目標だからだと思う。高嶋哲夫の透徹した情景描写力とも相俟って,なんともいえない美しさを漂わせているこの作品の痛さは,ぼくにとっては重松清の痛さよりも理解できる。ピカレスク・ロマンという意味では,小峰元「ディオゲネスは午前3時に笑う」とか高村薫「李歐」の雰囲気に近いものがあるといったら,わかって貰えるだろうか? ピカレスクロマンに感じる痛さというものをよくよく考えてみると,実は悪事に共感する自分自身の心の闇に気づかされてしまうからではないかと思うが,その辺り高嶋哲夫は実に意図的で,語り手のアキにも物語中盤で,「私はごくりと唾を飲んだ。みな殺しという言葉がひどく心地よく聞こえた。頬の痛みが身体の芯にまでゆっくりと広がっていく。私の中の異常がすでに日常になっているのだろうか」なんて言わせている。圧倒的なうまさである。なお,クラッキング絡みで一ヶ所だけ(その手ではパスワードは抜けないし,そもそもトロイの木馬を仕込んだクライアントに来るメールをsniffするだけならパスワードは不要だろう)妙なところがあるが,技術面も概ね不自然ではなかった。
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
つい第3作と書いてしまったが,あくまで自分が目にした3作目という意味なので,誤解なきよう。