最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
おもいでエマノン | 徳間デュアル文庫 |
著者 | 出版年 |
梶尾真治 | 2000年(初出は1983年,徳間書店) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
地球上に生命が誕生してから30億年に渡るできごとをDNAに刷り込んで継代してきたと自称する少女“エマノン”を主人公とする連作短編である。遺伝情報だけでなく外界の出来事をDNAに刻んでいるというのは情報量としてありえないように思うが,30億年の間に溜まった遺伝情報を読み出す能力があるとすれば,エマノンはヒトゲノムプロジェクトのメタファーとみなすこともできる。そう思って読んでみると,ポストゲノム時代の意味とか,いろいろ深読みできて面白い。別に深読みしないでファンタジーに浸っても,それはそれで楽しめるが。
ちなみに,「エマノン」が書き始められた1970年代は,まだヒトゲノムプロジェクトが本格的に立ち上がる前である(1991年に本格的な国際プロジェクトがスタートしている)。基盤技術としての大規模DNAシークエンサを開発した和田プロジェクトさえ1981年から始まったことを考えると,梶尾真治のアイディアが如何に先駆的だったかがわかる(娘を産んだ瞬間に母の記憶がなくなるという設定からすると,厳密には違う発想--たとえば脳に作用し,経産道感染するウイルスとか--かもしれないが,こう読めないこともない)。仮に脳内に実装できる小ささの超高速DNAシークエンサがあって,それを意味のある情報に翻訳するシングルチップコンピュータをアタッチメントにできるなら,エマノンみたいな妄想を生み出す存在があってもおかしくないかもしれない。今書き始めたらハードSFにできるかも。
サザンオールスターズのEMANONとどっちが先だろう? それにしても,今までEMANONの意味に気づかなかったのは,迂闊だった。こういうことってたくさんあるんだろうなあ。
なお,鶴田謙二の挿絵に惹かれる人も多いようである。