最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
洞窟の骨 | ハヤカワ・ミステリアスプレス文庫 |
著者 | 出版年 |
アーロン・エルキンズ著,青木久惠訳 | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
本書「洞窟の骨」(原題:SKELETON DANCE)は,形質人類学者探偵ギデオン・オリヴァーが活躍するスケルトン探偵シリーズの邦訳9作目である。「古い骨」「暗い森」には及ばないものの,いつも水準はクリアしてくるのがさすがだ。このシリーズの売りである形質人類学の知見を生かした骨からの謎解きも冴えているし,世界旅行名所ガイド的側面にしても,本書の舞台であるネアンデルタールやクロマニヨン人の遺跡があるフランスの片田舎はなかなか魅力的だし,妻ジュリーとの会話もますます味が出てきて,まあ満足したといっていい。
裏テーマは人類学者が陥りやすい罠という点にあり,昨年暮れに日本でも発覚した考古学における捏造という問題に切り込んでいるのに,なぜ罠に陥りやすいのかという点については,ギデオンの発言から仄めかされる程度で明確な解答が与えられない点にやや不満が残る。あるいは,ギデオン・オリヴァー名義で「骨に物申す--人類の研究にありがちな方向転換ミス,袋小路,勘違い」という本が本当に出版されるのかもしれないが,もしそうなら読んでみたいと思った。