最終更新：2019年2月13日（水）
| 書名 | 出版社 |
| 時空暴走気まぐれバス | 集英社文庫 |
| 著者 | 出版年 |
| 平井和正 | 2001年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
偶然乗ったバスがタイムスリップという設定自体は，眉村卓「とらえられたスクールバス」を思い出させないでもないが，全体の雰囲気は，むしろエドガー・ライス・バローズの火星シリーズや金星シリーズに近い。巻き込まれ型ヒーローが美女にもてまくりつつ無茶苦茶な苦難を理屈抜きに乗り越えていくというジュブナイルである。暴力への近しさとか，軽快な会話のテンポとかに現れる平井節は健在だが，読者であるぼくの方が「超革中」を読んだ頃とは変わってしまっていて，説明なしに謎だけが展開していく（ある意味ではＳＦらしさそのものかもしれない）のが気持ち悪かった。
しかし，「言霊使い」の面目躍如というべきか，著者自身があとがきで書いているように，シノプシスだけ抜き出したら数枚で終わりそうなこの話を，700枚書き連ねて読ませる力量は凄いかもしれない。各々の人物造形や情景描写がきちんとできていて，無茶苦茶な世界ではあるものの内的一貫性があるからだろう。これに説明をつけだすと，幻魔大戦みたいな大河小説になってしまうんだろうな，この人の場合。