最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
空飛ぶ寄生虫 | 講談社 |
著者 | 出版年 |
藤田紘一郎 | 1996年 |
りりぃ <d2e09116.tcat.ne.jp> website
人気がある、面白いとの声を聞くので、前から何か一冊読んでみたかった藤田先生の本である。図書館の書棚で見つけた時は、「れれっ」て感じだった。つまり、装丁が、何だか、漫画本のようで・・・。確か書棚に2,3冊あったのだがどれもそんな装丁で。それで、開いてまた吃驚。こんなに軽くて良いのかしらと。確か、医科歯科の教授と伺ったが、どうなっているのだろうか、この駄洒落?タイトルというか、小見出しが駄洒落で。
確かに文章はなめらかで軽く、重圧感がなく、寄生虫になど知識が皆無に等しい私のような素人にも入っていける。ただ、こんなに軽いのりのエッセー風で行くのかな?と思いきや、読み進むうちに著者の意図するところがわかってきた。日本人に、国内では珍しいウィルスや、寄生虫がもたらす病気を広く啓蒙し、海外との交流が盛んになった現代でこれらに対する最低限の知識を一人一人が身につけることの大切さを問いたかったのだ。それゆえこの文体を選ばれたのだと思う。人に物を伝える伝え方の難しさを思う。難しい文章で難しいことを書いている人はたくさん見かける。だが、果たして易しい文章でどれだけの人が難しいことを伝えられるだろうか?学術的なものでそれを試みて失敗すれば不謹慎と誤解されかねないし、自分自身が本当に分かっていなければ、噛み砕いて書くといこと自体が物により大変難しいと思う。勿論伝える対象により易しい文章など必要としないこともあるが。
確かに、この本を読むまでは私には世界で一番怖い病気はエイズとかエボラ出血熱ぐらいという認識しかなく、マラリアなんて過去の病気か熱帯地方の病気で、そんなに多くの人が未だ命を落としているという認識が無かった。
また、マラリアの予防薬(ファンシダール)の副作用でスティーブンス・ジョンソン症候群にかかり失明した人がいる話や、マラリアの予防薬は流行している地域を離れても一定期間飲まなければならないこと、それを誤って命を失う人がいることなど印象的だった。スティーブンス・ジョンソン症候群は、最近読んだ古い論文(S44)で、川崎病と似た病気というところで紹介されていたのでその名が記憶にあった。失明した方は、そのファンシダールに対する過敏性があったということなのだろうか?
他にも経験に基づく実話で興味深いものがたくさんあり、専門的な内容が出てくるにもかかわらず、一気に読めてし
まう。著者の話の進め方の巧さが読み手を惹きつけるのだろう。わずか4ヶ月で第五刷発行となっているのがこの本の人気を物語っている。気負わず、なめらかに流れる文章の中に一貫して漂う寄生虫への愛情、自分の研究分野への情熱がいい。本当に書きたいものを書いて光れるこの人は学者として幸せだと思う。
もうすぐ読み終わってしまうな、淋しくなるなと思う数頁前に透かさずご自分の別の本を紹介しているあたりが何とも心憎い。上手だなと思う。また、幾つか他の題名のものも読んでみたいと思う。